تسجيل الدخولクラリスの誕生日会は、王都の社交界の中でも一大イベントだった。会場には煌びやかな装飾が施され、貴族たちの華やかな談笑が響いていた。特に、同世代の令嬢や令息たちが集まり、社交の場としても重要な役割を果たしていた。クラリスは中央に立ち、招待客たちと優雅に挨拶を交わしていた。そんな中、ヒカリとカインは少し離れた場所から会場を眺めていた。「すごいなぁ……クラリス、めっちゃ人気者じゃん」ヒカリが感心したように言う。カインは腕を組みながら冷静に周囲を見渡した。「まぁ、クラリスは公爵令嬢だからな。当然と言えば当然だ」「でも、こんなに人がいるのに、クラリスの本当の友達ってどれくらいいるんだろうな……」ヒカリの言葉に、カインはふと考え込んだ。確かに、クラリスは社交界では完璧な貴族令嬢として振る舞っている。だが、それは「表向きのクラリス」であり、本当に気を許せる友達がいるかは別の話だった。そんな時、ヒカリの視線がある二人の令嬢に留まった。「ん? あの子たち……」一人は、明るくてシャキシャキと話す令嬢。鮮やかなエメラルドグリーンのドレスを着ており、そのそばには風の上位精霊が浮遊している。もう一人は、どこかおどおどした雰囲気の令嬢。淡い水色のドレスを着ており、視線を落としがちで、大人しい印象を受ける。ヒカリは小声でカインに話しかけた。「あの子、まだ精霊と契約してないみたいだな」カインも彼女の様子を観察しながら頷いた。「確かに、精霊の気配がしない。おそらく、まだ契約していないのだろう」「でもさ、なんで契約できてないんだろ?」ヒカリは疑問を口にした。その時、会話に聞き耳を立てていた水精霊が控えめに口を挟んだ。「あ、あの……あのオドオドした子、水属性だね」「えっ、そうなの?」ヒカリが驚いたように水精霊を見る。水精霊は少し緊張しながら続ける。「うん……でも、たぶん明るい子の精霊が上位だから、その影響で契約できてないんだと思う……」カインは納得したように頷いた。「なるほどな。精霊は、契約者の魔力の流れに引き寄せられる。だが、すでに強力な精霊が傍にいると、新しい精霊が近づきにくい場合がある」ヒカリはしばらく考え込んだ後、突然、何かを思いついたように顔を上げた。「……だったらさ、水精霊、お前があの子の精霊になればいいんじゃね?」「な
湖畔の風が静かに吹き抜ける。ヒカリとカインは、クラリスが庭で花を摘んでいるのを遠くから眺めながら、今後のことについて話し合っていた。「クラリスはもうすぐ11歳か……」ヒカリがしみじみと呟く。「そうだな」カインも腕を組みながら答える。「貴族の子供にとって、11歳の誕生日は大きな意味を持つらしい。正式に社交界へ足を踏み入れる準備が始まる年齢だからだとクラリスが言っていた。」「そうだな……そして15歳で学園に入学する」ヒカリは湖の水面を眺めながら続けた。「そして……18歳の卒業舞踏会……」ヒカリの声が少し沈む。それを察したカインが、横目でヒカリを見た。「どうした? お前らしくもない暗い顔をして」「……いや、なんでもない」ヒカリは苦笑しながら頭を振った。「それより、11歳の誕生日会には貴族の子供たちが来るんだろ? クラリスに本当に信頼できる友達を作るチャンスだよな」カインは軽く頷く。「確かにな。クラリスの周りには、クラリスの顔色を伺いただ従うだけの取り巻きが多いが、それではいざという時に力にならない。クラリスが本当に信頼できる仲間を見つけることができれば、それが一番だ」「でもさ……そんな奴、本当に見つかるのか?」ヒカリは少し疑わしそうに言う。「クラリスの周りには、結局名家の連中ばっか集まるんじゃねぇの?」「その可能性は高いが、だからといって何もしないわけにはいかない」カインは静かに言った。「俺たちは精霊だ。クラリスを導き、支える役目がある。ならば、彼女の未来を少しでも良くするために動くのが当然だろう」ヒカリはしばらく考えた後、ゆっくりと頷いた。「……わかった。なら、俺たちもクラリスのために動くか」カインは口元に微かな笑みを浮かべる。「そういうことだ。誕生日会では、クラリスが本当に信頼できる相手を見つけられるよう、俺たちもそれとなく手助けする」「でもクラリスには気づかれないようにしないとな」ヒカリは苦笑しながら言う。「あいつ、気を遣いすぎるところあるから、俺たちが何かしようとしてるって分かったら、逆に遠慮しちまいそうだし」「それが一番の問題だな」カインは腕を組みながら考え込む。「だが、何もしなければ何も変わらない。俺たちができる範囲で、自然に導くしかない」ヒカリは軽く拳を握りしめ、カインに向かって突き出した。「よし、決ま
クラリスが眠りについた後、夜の静寂の中でカインはじっと考え込んでいた。ヒカリが魔法を使った。それがカインにとっては大きな衝撃だった。精霊の役割は、基本的に契約者へ魔力を供給すること。精霊自身が魔法を使うことは、通常あり得ない。契約者が強ければ強いほど、大量の魔力を引き出せるが、ヒカリには契約者がいない。それなのに――「ヒカリは、どうやって魔法を使ったんだ……?」カインは拳を握りしめ、ふと自分の手のひらを見つめた。「俺に……魔法は使えるのか?」考えても答えは出ない。ならば、やるしかない。カインはヒカリを探し、屋敷の庭に出た。「ヒカリ!」「ん? 何、カイン?」ヒカリは、まだ空に浮かんでフワフワと漂っていた。「お前、魔法を使うとき何を想像した?」ヒカリは即答する。「クラリスをすべてから守る盾をイメージしたよ」「……イメージか」ヒカリは楽しげに続けた。「そそ! 誰にもクラリスを傷つけられない盾をって! まぁ光の盾は出たけど、正直、弱すぎてダメだったな……」「……なら俺は、クラリスに攻撃しようとする敵を撃つイメージをするか」カインは目を閉じ、仮想の敵を思い浮かべた。クラリスに刃を向ける、見えない敵。それを焼き尽くす力。その瞬間、カインの手元に赤い炎が集まり、槍の形を成していく。「《焔の槍》」カインが投げ放った槍は一直線に飛び、庭の大木に直撃した。だが――「……ダメか」木の皮が少し焦げただけだった。「俺もヒカリのことは言えないな……」しかし、ヒカリは興奮していた。「カイン、すげーな! ちゃんと魔法になってるじゃん!」カインは腕を組みながら考え込む。(これは、俺の魔力なのか? それとも……)すると、水精霊が小さく震えながら言った。「ひ、火精霊も魔法使えるんだ……」カインは無言で夜空を見上げた。もし、精霊が魔法を使えるのならば。それは、今までの常識を覆すことになる。焦りにも似た感情が、カインの胸の奥に広がっていった。ヒカリの魔法を目の当たりにし、自分も魔法を使えたことで、カインの心の中に焦燥感が広がっていく。「精霊が……魔法を使うなんて、あり得るのか?」カインは自分の手をじっと見つめた。今、確かにそこには炎が宿っていた。しかし、それは本来、精霊が扱えるものではないはずだった。「ヒカリ、
夜の静寂が屋敷を包む中、ヒカリはひとり、裏庭で魔法の練習をしていた。「……我は君を守る盾となり、君を癒す存在になろう。我の魔法をとくと見よ……《シャイニングシールド》! そして、《シャイニングシャワー》!」両手を大きく広げ、誇らしげに詠唱を唱えるヒカリ「……うーん、もうちょっと言葉を変えてみようかな」「しかし俺、中二病みたいだな」ヒカリが額に手を当てて悩んでいると、不意に背後から声が聞こえた。「お前は、何をしているんだ、それに中二病とはなんだ……?」「えっ!?」ヒカリは驚いて振り向いた。そこにはカインが腕を組みながら、呆れたような表情で立っていた。「ま、まさか……聞こえてた?」「ああ……最初からな」「うわー、マジかー!」ヒカリは顔を両手で覆い、穴があったら入りたい気持ちになった。「……いやー、その、イメージトレーニングは大事かなって……」「うむ、一理あるな」カインは普通に頷く。「いや、そこは笑って誤魔化してくれよ!」「別に変なことじゃないだろう。むしろ、お前の魔法がどうなるのか興味がある」「えっ?」「実際に魔力を出して試してみろ」「え、いや、流石に無理じゃないか? 今までそんな魔法使ったことないし……」「言い出したのはお前だろ。さあ、やってみてくれ」「ぐぬぬ……」「ヒカリ少し待ってくれ」カインがヒカリの魔法を使うのは止めた。そしてクラリスに向かって言う。「クラリスちょっとこっちに来てくれ」自室の窓から見ていたクラリスを呼び寄せた「何カイン?」クラリスは呼ばれるままに裏庭に来た。「今からヒカリがクラリスに魔法を使うからそこに立っててくれ」クラリスは頷いた。「ヒカリ準備は出来たぞ」カインがそう言うとヒカリは渋々、再び魔力を込めることにした。「……我は君を守る盾となる。《シャイニングシールド》!」そう唱えながら、クラリスを守る光の盾を強くイメージする。その瞬間――「えっ……?」クラリスの周囲に、眩い光が集まり、純白の輝きを放つ半透明の盾が展開された。「ええっ!? えええええ!?」クラリスは目を見開いて驚いた。「……おお」カインは納得したように頷く。「な、なんだこれ!? 本当に出た!?」ヒカリは動揺し、光の揺らめきを見つめる。「どうやら、お前の魔力の操作は間違っていなかったようだな」カインが分
ピクニックから戻ったヒカリとカインは、クラリスの魔法について話し合っていた。「クラリスの魔法、すごかったな」ヒカリが感心したように言うと、カインも頷いた。「うむ、まさかあそこまで見事に適応するとはな」今回の魔法では、カインの火属性の魔力を抑え、ヒカリの光属性の魔力を多く送ることで、闇を浄化する効果が生まれた。それが見事に機能し、闇墜ちした魔物を元の姿へと戻すことができたのだ。「今後もクラリスに送る魔力を調整しつつ、俺たちも魔法の特訓を開始する頃合いだな。俺たちの魔力操作も、かなりいい感じにできるようになってきた」カインが続けると、ヒカリも嬉しそうに頷いた。そこへ、水精霊が興味津々といった様子で近づいてきた。「ま、魔力操作って君たちは、な、何をしてるんだ?」ヒカリが説明する。「俺たちはクラリスに魔力を送って、彼女の魔法を強化してるんだ」水精霊は驚いた顔で目を丸くする。「そ、そんなことができるのか?」「まあな。ただし、クラリスが適応できる範囲の魔力に調整する必要があるけどな」カインが答えると、水精霊はしばらく考え込んだ。やがて、水精霊は自信ありげに言った。「ぼ、僕もクラリスに魔力を送ってみたい!」その瞬間、カインが表情を引き締めて、きっぱりと言った。「それはやめておけ」「えっ?」水精霊は驚いてカインを見る。「クラリスは火属性持ちだ。水属性の魔力を無理に流し込めば、どんな影響が出るか予想できない。最悪の場合、クラリスの魔力回路が壊れる可能性すらある」ヒカリも「確かに……。光属性の俺の魔力を送るだけでも、カインの火属性と組み合わせないとクラリスに負担がかかるんだよな」と納得する。しかし、水精霊は納得がいかない様子だった。「で、でも、僕もクラリスの役に立ちたい……!」「気持ちはわかるが、無理にやる必要はない」カインが冷静に言い聞かせる。「ど、どうしてもダメなの?」「火と水は相反する属性だ。もしお前の魔力を直接流せば、クラリスの魔力回路が反発を起こし、混乱するかもしれない」「そ、そんな……」水精霊は肩を落とした。ヒカリが少し考え、「でも、水精霊の力を活かせる方法があるかもしれない」と提案した。「どういうこと?」水精霊が顔を上げる。「直接クラリスに魔力を流すんじゃなくて、俺たちの魔力操作を通して、ごく少量ずつ混ぜてみ
湖畔に吹く涼しい風が、先ほどまでの騒動をなかったことのように流していく。ヒカリはふと、あることを思い出した。「そういえば、あの精霊どうなったんだろうな?」 クラリスが小首をかしげる。「精霊って何のこと?」 ヒカリは思わず目を丸くした。「あれ、クラリスには見えてなかったのか!?」 カインが腕を組みながら淡々と答える。「アレは水精霊だからな。クラリスには見えてないぞ」「え?どういうこと?」「クラリスは火属性だろ?基本的に、火属性の人間は火属性の精霊しか見えない。他の属性の精霊は、その属性を持つ者にしか視認できないんだ」「えぇ?……じゃあ、ヒカリは光精霊なのに、なんで私には見えるの?」「それは、お前とヒカリの間に信頼関係ができているからだろうな」 クラリスがヒカリとカインを交互に見つめながら、納得したように頷く。「なるほど……ってことは、その水精霊さんは、私には見えないし、話しても聞こえないのね」「そういうことだな」 そのとき、ヒカリがふと、湖の方を指さした。「……おい、アレ、なんか言ってるぞ?」 カインも視線を向けると、湖の上に小さな青白い光が揺らめいていた。透明な人型の姿をしたそれは、ぶるぶると震えている。「ぼ、ぼくを殺す気か……!」 怯えた様子で、水精霊が文句を言っていた。「いや、別にお前を攻撃したわけじゃないけどな」ヒカリが苦笑しながら言う。「闇墜ちした魔物をどうにかしただけだ」「そ、それは分かってるけど……でも、ぼくはただの通りすがりだったのに、あんな恐ろしい攻撃の巻き添えになるなんて……!」 カインはため息をついた。「まぁ、気持ちは分かるが、お前も上位精霊なら、もう少し冷静になれよ」 ヒカリは驚いたように水精霊を見つめた。「へぇ、お前、上位の水精霊だったのか」「うん……。それなのに、魔物に追いかけられてたんだよぉ……怖かった……」 カインは改めて水精霊を見つめ、少し考え込むような表情をした。「上位精霊がこんなところで魔物に追われるとはな。妙だな……」「それは置いといて……」ヒカリが話を戻すように言った。「お前、さっきクラリスのことをじっと見てたけど、何か気づいたことでもあるのか?」 水精霊は少し戸惑いながらも答えた。「うん……この子、普通の火属性の人間じゃないよね?」「お、やっぱりお前







